第32章 幾恋心

「前から思ってたけど、雪ってあまり女性らしい恰好しないわよね」

「え…まぁ…うん」


　機能性重視な恰好をしてる自覚はあった。
　こういう職場だし、いつ何が起こるかわからない。
　AKUMAによる本部襲撃もあったから、いつでも戦えるようにしておかないと。
　それにファインダーは男性ばかりの職だし、そこで女性らしくしていても浮いてしまうだけだし。


「リナリーはいつも可愛い恰好してるよね。そのチャイナワンピ、可愛いよ」

「ありがとう。…って、そういう感覚あるなら雪も着たらどう？」

「それはリナリーが着るから可愛いんだよ。私は遠慮しとく」


　改めて、今日のリナリーの恰好を見てみる。
　チャイナ風のベビーピンク色の丈の短いワンピース。
　細い足を惜しげもなく出して、同じくベビーピンクのニーハイに足元はリボンの付いた赤いパンプス。

　うん、今日もリナリーは可愛いです。


「雪だって女の子なんだから。女性らしい恰好をすれば、きっと神田も自覚して心改めると思うのよね」

「はい？」


　心改めるって何が。


「ということで、この後早速取り掛かりましょっ」

「取り掛かるって何をっ？」


　どうしよう。
　嫌な予感しかしない。
　思わず身を退けばそれより早く、またもやリナリーに手を握られた。


「あら。今日は私に付き合ってくれる約束よね？」

「……」


　有無言わさない笑顔に、私に反論の余地はなかった。

　…コムイ室長。
　貴方の妹さんは、とても逞しく育っているようです。