My important place【D.Gray-man】
第32章 幾恋心
「…ふふ」
神田とトマさんを見送って、一人廊下でつい笑みを漏らす。
軽く振っていた自分の手首を見れば、そこには神田がくれた"枷"がある。
──繋がってる。
ちゃんとそれを形として実感できて、安心した。
「ふーん」
不意に聞こえたその声は、真後ろから。
「!?」
あまりのその近さに驚いて振り向けば──近っ!
「なんだか嬉しそうね? 雪」
にこにこと笑みを浮かべて私のすぐ背後に立っていたのは、
「リ…リナリー…」
教団一の美少女だった。
「おはよ…ってか吃驚した」
「偶々二人が見えたから。おはよう」
「二人?」
「雪と神田」
いや、トマさんもいたから。
綺麗にスルーしないで下さい。
「ふーん」
さらりと綺麗な笑顔で言い切ったリナリーの目が、再び私を見て呟く。
まじまじと、私を見て。
…なんでしょう。
「……雪、最近なんだか綺麗になったわね」
「は?」
唐突な言葉に思わず目が点になる。
綺麗って…リナリーに比べたら全然ですけど。
「ほら、言うじゃない。恋する女性は綺麗になるって」
「…へ?」
両手を後ろに組んで下から覗き込むように身を屈めて、綺麗な顔を近付けながらリナリーは笑った。
「雪、恋してる?」
「……」
いつもならすぐに首を横に振ったけど、神田のことを思い出すと横に振れなくて。
「…いや、別に」
やっと返せたのは、そんな返事だけ。
近いリナリーの顔と自分の顔の間に、腕で隔たりを作って距離を置く。
するとリナリーはそんな私の腕を見たかと思えば──
「あらっ」
ぱぁっと嬉しそうな笑顔になった。
え、何。
「雪っやっぱり神田と何かあったんでしょっ」
「え? はっ?」
そしてぎゅっと強く手を握られた。
え、何何。