My important place【D.Gray-man】
第32章 幾恋心
「──あ」
洗面所を出て食堂に向かっていると、見知った高い背を見つけた。
今から任務に向かうのか、団服姿で方舟ゲートがある方へ向かってる。
「神田」
だからなんとなく声をかけてみた。
声に気付いた神田が、足を止めて振り返る。
その隣にはファインダーのトマさんの姿があった。
今回の任務、トマさんとなんだ。
「組むファインダーはトマさんなんだね。なんの任務?」
「単なるイノセンス回収だ」
「そうなんだ」
聞いた限りじゃ、そんな特別な任務には思えない。
トマさんは私よりベテランだから、今回はファインダーの新人育成じゃないみたいだし…。
…なんで今回は別々にされたんだろう?
「気を付けてね」
「気を付けるまでもねぇよ」
「何が起こるかわからないでしょ」
イノセンス回収中にAKUMAと遭遇なんて、よくある話。
私に自分の体を大事にしろって言うけど、神田ももっと自分を大事にすべきだと思う。
いくらセカンドエクソシストだからって、怪我を負っていいことにはならないんだから。
「すぐに完治しても怪我は怪我。私のこれと変わらないよ」
額の絆創膏を指差して言えば、その顔はじっと私を見下ろして小さく溜息をついた。
「ったく…はいはい」
面倒臭そうにしてるけど、一応ちゃんと聞いてはくれたみたい。
「トマさんも、神田をよろしくお願いします」
「ええ、わかりました」
「…オイ」
トマさんはファインダーとしての実力ある人だから、安心かな。
「じゃあ、いってらっしゃい」
トマさんに頭を下げた後、不服そうにしてる神田に軽く手を振る。
あんまり引き止めちゃ悪いし。
それは初めて同時に別々の任務に宛がわれた時と、同じだったけれど。
「…いってくる」
ぼそりと返された言葉は、あの時とは違うもの。
その言葉に不思議と心は満たされた。
なんだろう…ちゃんと帰って来てくれるって気がするからかな。
あの時より、しっかりと心が繋がったからかもしれない。