My important place【D.Gray-man】
第31章 嘘と誠
「じゃあ逃げんな。捕まえて簀巻きにすんぞ」
「……それ、仮にもそういう関係ですることじゃない…」
何処の世に好きな相手を簀巻きにする人がいんの。
いや、そういう趣味趣向の人もいるかもしれないけどさ…。
…………とんだド変態だよそれ。
というか、逃げてる気はあんまりないというか…恥ずかしさで直視できない感じなだけで。
逃げるって言うなら、それはあの時みたいに──
『だーめ』
………あの時?
『逃げたら、捕まえたくなるだろ』
何を思い出そうとしたのか、自分でもよくわからなかったけど。
誰かに何か、神田と似たようなことを言われた気がした。
『俺のこと、憶えててね』
逃げ出そうとすれば私の腕を引き止めるように強く掴んで、真っ直ぐに見てきた切れ目は、飄々とした雰囲気で笑っていた。
あれは………誰だったっけ…?
「…なんだったっけ…」
「あ? なんだよ」
「いや…なんか、神田と似たような台詞を何処かで言われた気が…」
思わず腕組みして考える。
ううん、と首を傾げてみても、何故か朧気に曖昧で思い出せない。
「似たような台詞?」
不意に近くでトーン低く下がる声。
げ。
「誰だ、そいつ」
今までも何度か聞いたことのある、静かに怒りを含んだ時の神田の声。
思わず思考を止めて目を向ければ、やっぱり其処には怖い顔した神田がいた。
「ぁ、いや…やっぱり勘違いだった」
咄嗟に苦笑して首を横に振る。
生き物の生存本能ってやつですね。
ここで具体的に誰かの名前なんて挙げたら殺されそうな気がする。
その人と私が。
「誰に言われたんだよ。吐け」
「いや、だから勘違いだったって」
「じゃあなんだその冷や汗は」
「それはそんな顔で神田が迫るからです!」
据わった目で顔近付けないで怖い!
美形も心臓に悪いけど、その怖い顔も心臓に悪いんだって…!