My important place【D.Gray-man】
第31章 嘘と誠
「もう。神田らしいけど…」
「女性の誘いを断るなんて、失礼ですよ神田」
「……」
あ。
溜息混じりに呟くリナリーは、然程気にしてないみたいだったけど。
忠告してくるアレンに、ピクリと反応した神田の足が止まる。
まずい、また喧嘩になるかも。
「……」
「なんですか」
振り返って眉間に皺寄せた神田が、アレンを睨む。
それににっこり笑って返すアレンもどことなく黒い。
ああ、今まで何度も見てきた光景だ。
この後神田がドスの効いた声を出して、それにアレンが間髪入れず言葉を返して、そしてお互いの視線の間で火花が散る。
特に最近よく間近で見るようになったその光景を思い出して、肩が落ちた。
今はリナリーが一緒にいるし、リナリーが二人に言ってくれれば喧嘩もすぐ止まるかな…。
「……別に。なんでもねぇよ」
そうそう、そうやってドスの効いた声を──……ん?
ドス、効いてない…?
というか素っ気ないけど、声は全く荒立ててない。
普通の神田の声に思わずその姿を凝視する。
「モヤシがいるなら、相手に困らねぇだろ。俺は行く」
「あ」
くるりと再び背を向けて、リナリーにそれだけ言うとスタスタと神田は出口に向かって歩き出した。
め、珍しい…。
アレンに喧嘩売らないなんて…。
「…なんか…いつもの神田と違う…」
「蕎麦の食べ過ぎとかですかね…」
思わずその背中を見ながら呟けば、同じことを思ったのか。アレンも同じにまじまじと神田の背中を見ながら、そう呟いた。
いや、今日の朝ご飯は白米にお味噌汁とお漬物だったんだよアレン。
珍しく蕎麦じゃなかったんだよアレン。
それか。
珍しく蕎麦以外を摂取した故の、副作用か何かか。
「ふふ。アレン君と喧嘩するより、優先したいことがあっただけでしょ? きっと」
「優先したいこと?」
「って何」
一人、何か悟ったようにクスクス笑うリナリーを、思わずアレンと凝視する。
なんだろう、優先したいことって。
というかそうだったの?
全く気付かなかった。