My important place【D.Gray-man】
第31章 嘘と誠
「…ありがとう」
冷たくて心地良い頬の手に、少しだけ顔を傾けて肌を寄せる。
触れてるだけで、私に安心をくれる肌。
それを実感するように目を閉じて。
「その言葉だけで、キツさなんてなくなった」
全部じゃないけど、でもあんなに苦しかった思いは軽くなったから。
「ありがと…神田、」
もう一度、心からの感謝の言葉を口にして、心地良い体温に口元を綻ばせた。
むにっ
「………………なにふんへふか」
……ちょっと。
人が心地良く浸ってる時に、なんで頬抓るんですか。
思わず目を開ければ、じーっとこっちを見てくる黒い眼とぶつかった。
「……チッ」
それも束の間、すぐにふいと視線を逸らされた。
というか何故舌打ち。
される意味が全くわかりません。
「…そういう顔は、場所を考えてやれ」
は?
舌打ち混じりの鬱陶しそうな顔をして、でもその目は私じゃなく私の後方に向いていた。
何?
「雪と神田じゃない」
後方から飛んでくる声。
同時に神田の手が頬から離れて、振り返る。
「また一緒に組み手やってたの? やっぱり仲良しね」
「…というかまた雪さんの顔抓ってませんでした?今」
其処にいたのは、にっこり笑顔のリナリーとジト目で見てくるアレンの姿だった。
あれ? リンクさんは…あ。
少し離れた場所で待機してる。
本当、監視役だなぁ。
というか仲良しって。
二人こそ仲良しじゃないんですか。
当たり前によく一緒にいるよね、そうやって。
やっぱり付き合ってたり…げふん。
いえ、なんでもないです。
「折角だし、私達も組み手混ぜてよ」
「…気分じゃない」
「え?」
リナリーの誘いを素っ気なく断った神田が、腰を上げる。
「充分汗は掻いた。シャワー浴びる」
「充分って…」
まだそんなに鍛錬してないと思うけど…。
「行くぞ」
「え?…あ、うん」
そうは思ったけど、当たり前に私を見て呼びかけてくるから、つられて腰が上がった。