My important place【D.Gray-man】
第6章 異変
──ポタ
不意に、何か雫のようなものが手の甲に落ちる。
薄暗くてよく見えなかったけど、視線を下げればそれは羅列するように、ポタポタと何度も手の甲を静かに打った。
「うわ、また…っ」
最近覚えのある現象に咄嗟に額に手を当てれば、ぬるりと覚えのある感触。
まさか絆創膏から滲み出ちゃったの…っ?
「っ、こんな時に…」
慌てて額を手で押さえてトイレを出る。
薄暗い見慣れた公共トイレには、来た時と同じで誰も見当たらない。
そのまま手洗い場の蛇口を慌てて捻った。
流れる水を手で救って額を濡らす。
絆創膏、切れたりしちゃったのかな…。
そんなことを思いながら、具合を確かめようと目の前の鏡に顔を映す。
薄暗くて、よくは見えなかったけど。暗闇に段々と慣れてきた目は、確かにそれを映し出した。
「………え…?」
絆創膏は切れても血を滲ませてもいなかった。
額の傷跡に張っている、絆創膏。
その隣。
「なん、で…」
そこにじわりと、できたばかりの皮膚を裂いた赤い線で…十字架のような傷が浮かび上がっていた。
思わず愕然として言葉を失う。
じわりと血を滲み出させながら、十字傷は内部から浮き上がるようにはっきりと私の額に現れた。
その瞬間を見てしまったから。
これ…普通の、傷じゃない。
──…スナ…
「え?…つぅ…ッ!」
ズキリと頭が強く痛む。
──…ヲ…ナ…
ズキズキと痛む頭の中で、木霊する声。
──…ツ…ス…
誰。私の頭の中で呼んでいるのは。
一体、誰なの。
──…ヤツ、ヲ…
「ッ…ヤツ…っ?」
やつ?
…………奴?
「…ぁっ…つ、…ッ」
確かに聞いた。
──…ヤツ…ヲ、ユ……ナ…
頭の中で木霊する声は。
"奴を許すな"
そう、口にしていた。