My important place【D.Gray-man】
第6章 異変
「っ」
入ってますよ、と。そんなことを伝える気なんて到底起きなくて。
咄嗟に、ドアから距離を置くように便座に乗り上げていた。
不意に、ドアノブを回していた音が止まる。
不気味な程の静寂。足音もドアの開閉の音も聞こえない。
それは短いようで長いような一瞬の間。
自分の背中に冷たいものが伝うのを、はっきりと感じていた。
別に霊感なんてないけど。
これは、もしかしたら──
「ハァアァァ…」
些細な音だった。
静寂でないと聞き取れない程の、それは些細な呼吸音。
でも確かにそれは、ドア一枚隔てた向こう側から聞こえた。
深く息を吐き出すような、そんな誰かの吐息。
「っ──!」
ぞくりと背中に寒気が走る。
絶対に、このドアの向こうにいる人は教団の人じゃない。
そう直感して。
──……カツン、
不気味な程長く感じる間だった。
その間を掻き消したのは、再び聞こえた静かな足音。
カツン、カツンと。それは来た時とは逆に、段々と遠くなる。
これ、去っていってる…?
「…ッ……はぁ…」
足音がトイレの外へと消えていった数秒後。
私はやっと緊張していた体を解くように、便座に座り込むことができた。
こ、怖かった…。
「…何あれ」
一人取り残された便座の上。
得体の知れない現象に、ひやりと体温が下がった気がした。