• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第6章 異変



「っ」


 入ってますよ、と。そんなことを伝える気なんて到底起きなくて。
 咄嗟に、ドアから距離を置くように便座に乗り上げていた。

 不意に、ドアノブを回していた音が止まる。
 不気味な程の静寂。足音もドアの開閉の音も聞こえない。
 それは短いようで長いような一瞬の間。
 自分の背中に冷たいものが伝うのを、はっきりと感じていた。

 別に霊感なんてないけど。
 これは、もしかしたら──




「ハァアァァ…」




 些細な音だった。
 静寂でないと聞き取れない程の、それは些細な呼吸音。
 でも確かにそれは、ドア一枚隔てた向こう側から聞こえた。
 深く息を吐き出すような、そんな誰かの吐息。


「っ──!」


 ぞくりと背中に寒気が走る。
 絶対に、このドアの向こうにいる人は教団の人じゃない。
 そう直感して。




 ──……カツン、




 不気味な程長く感じる間だった。
 その間を掻き消したのは、再び聞こえた静かな足音。
 カツン、カツンと。それは来た時とは逆に、段々と遠くなる。

 これ、去っていってる…?


「…ッ……はぁ…」


 足音がトイレの外へと消えていった数秒後。
 私はやっと緊張していた体を解くように、便座に座り込むことができた。

 こ、怖かった…。


「…何あれ」


 一人取り残された便座の上。
 得体の知れない現象に、ひやりと体温が下がった気がした。

/ 2655ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp