My important place【D.Gray-man】
第30章 想いふたつ
ゆっくりと顔を離す。
見えた月城の顔はぽかんとしたマヌケ面から、挙動不審なものに変わる。
「な、ん…っ」
頬を赤くして。
アメリカで年越しのカウントダウンを月城と過ごした時。その口元に同じ行為をした時は、真っ赤な顔で狼狽えていた。
あの時に比べれば随分大人しい反応だと思うが、あの時は微塵も思わなかった気持ちが俺の胸の中を渦巻く。
「痛いのは嫌なんだろ」
「だからって…なん、何…っ急に…ッえっ?」
「……ふぅん。そういう反応か」
「はっ?」
挙動不審に慌てる月城の姿が、俺の行為で生まれたもんだと思うと悪くないと思った。
というか、もっと見てみたいと思った。
俺の与えた行為で顔を赤くするその姿に、じりじりと胸の奥が焦げ付く。
「い、意味わかんない…ってか近い…っ!」
逃げるように体を離そうとする月城の腕を掴む。
その反応をもっと堪能してみたいとは思ったが、今は何より優先すべきことがある。
「月城」
「えっ? 何…」
「もう言い逃げはナシだ。ちゃんと言え」
もう逃がさねぇからな。
風邪の時は我慢してやったんだ、今度はちゃんとその口で現実の俺に言え。
「…………な、何が?」
間を開けて月城が応える。
14番目のノアメモリーのことを知らなくても、ロンドンの任務で不安定だったモヤシの心を察してた奴だ。
こいつはマヌケに鈍感な人間じゃない。
あの言葉の直後に声をかけてんだ、気付いてんだろ。
「惚けんなよ。自分だけ勝手に言いたいこと言って気持ち片付けて、俺のことは無視かよ」
「………言ってる意味がワカリマセン…」
「…ァあ?」
それでもシラを切る月城に、思わず眉間に力が入った。
すると途端に俺の威圧に圧されてか、冷や汗を流しながら挙動不審に顔色を青くする。
まるで無言のパニック状態。
「何一人で百面相してんだよ」
「っ…な、殴らないで下さい…」
思わず突っ込めば、怯えるように肩を竦めた。
何想像したのかわかんねぇが、殴るようなこと言ってねぇだろお前。
…そうやって素知らぬフリすんのは、殴りたくなるがな。