My important place【D.Gray-man】
第30章 想いふたつ
「面倒って…」
「面倒だろ。泣いてる癖に泣いてないなんざ言う奴の涙なんか」
溜息混じりに言えば、月城の眉の間に皺が寄った。
何むくれてんだよ、本当のことだろ。
「…だって神田、痛くするから」
「あ?」
「涙拭う手が凄い痛いから。泣いてないって言いたくもなるでしょ」
近くにある顔が、視線を逸らしながら言い返してくる。
そういや前も似たようなこと言ってたな、こいつ。
痛かったから、優しくしろだなんだ。
…そういう欲求はすらすら言える癖に、なんで大事なことは呑み込もうとするんだよ。
「……はぁ」
ったく、面倒臭い。
「痛くしなけりゃいんだろ」
溜息混じりに肩を下げる。
…そんなこいつの性格なんざ、今更か。
そんな面倒を承知で、俺はこいつを見ようと思ったんだ。
「──っ」
目元に触れていた手を頬に添える。
そのまま近くにある月城の顔に口を寄せれば、唐突なことに体は動かなかったのか。月城は反射的に目は瞑ったものの、体は逃げようとしなかった。
「……」
その瞑った瞼の上に、唇を押し付ける。
あの風邪をひいて寝ていた時と同じに、その体温を感じるように。
あの風邪の時より熱くは感じない、月城の皮膚の体温。
それでもそこに触れると、まるで熱が伝わるかのように俺の胸は僅かに熱くなった。