My important place【D.Gray-man】
第30章 想いふたつ
「神田…っ?」
「うるせ…寝る、だけだ…」
不安そうに呼ぶ月城の声にそれだけ応えて、ゆっくりと深く息を吸う。
まだ開いてる喉の裂け目に、ごぽりと口の中で僅かな血が滲む。
今はまともに喋ることもできねぇんだ、少し寝かせろ。
「寝るって…だ、駄目だよ…っこんな状態で意識飛ばしたら…ッ」
そのまま俺が逝くとでも思ってんのか。
更に不安さが増した月城の声に、仕方ないとまた目を開ける。
ったく、手間の掛かる奴だな。
「月城」
名前を呼ぶ。
見下ろしてくる不安げな目に、まともに体が動かない今、唯一できることをしてやった。
「大丈夫だ。死んだり、しない」
はっきりとそう口にして、少しだけ口元を緩ませる。
──エドガー博士
俺でもどこか温かいもんを感じることができた、あんたのあの笑顔
それを今の俺が持てているかはわからないが
……そうやって見ていたい相手はできた
今の俺を見たら、きっとあんたは笑うだろうな
あの優しい顔で
…もうこの世にいないあんたに、そんな思いを馳せても無意味かもしれないが
「だから…心配、するな」
「神田…」
驚いたように見下ろしていた月城の表情が、少し落ち着いた。
そっと、遠慮がちにその手が俺の頭に触れる。
「……うん…わかった」
優しく少しだけ髪に触れる、俺の血で赤く染まった手。
「起きるの、待ってるから…体ちゃんと治してね…」
当たり前だろ、間違っても寝たまま逝ったりなんかしねぇよ。
そう思ったものの、まだ少し不安げに呟くその声に言うのはやめた。
今の俺のこの姿を見てれば、不安にもなるんだろう。