My important place【D.Gray-man】
第30章 想いふたつ
「…──…っ…」
歯を食い縛る。
血が足りなくて上手く動かない手を、そいつに伸ばした。
「──!?」
頭を掴めば、弾けるように顔が離れて俺を見た。
俺の血で至る所真っ赤に染めた、ぐしゃぐしゃの泣き出しそうな顔。
…酷ぇ顔。
「…勝手…に、殺す……な…」
喉に穴なんて空いてるから、言葉は濁った音にしかならない。
それでも言葉は届いたようで、月城の暗い目が丸くなった。
「……か…んだ…?」
なんだよ。
「…神田…?」
だからなんだ。
「何度…も…呼ぶな……聞こえて、る」
さっきから呼び過ぎなんだよ、お前。
聞き飽きて耳にタコができた。
「…ッ」
俺の頭を抱くようにして覗き込んでいた月城の顔が、またくしゃりと歪む。
泣き出す一歩手前の顔。
「っ…神田…」
「……うっせ……聞こえて、る…ってん…だろ…」
今優しい言葉の一つでもかけたら、こいつは泣き出してしまいそうな気がして。
俺の口から零れたのは、いつもと変わらない言葉だった。
「神田…っ」
必死に涙を呑み込んで、我慢してんのがわかったから。
…そんな顔してりゃ、泣いてんのと同じだけどな。
「…神田…生き、て…ッよかっ…神田…ッ」
俺の頭を月城の腕が強く抱きしめる。
正直息苦しさは増したが、突き放す気は到底起きなかった。
「…ったく……大袈裟…なんだよ…」
寧ろその少し痛いくらいの抱擁が、どこか心地良くて。
もう少し…その体温を感じていたいと思ったから。
死ぬ訳ねぇだろ、お前を置いて
勝手に殺すんじゃねぇよ