My important place【D.Gray-man】
第6章 異変
「……眠れない」
その日の深夜。
病室のベッドの中で私は格闘していた。
冴えきった頭と。
入院中は安静第一だし、こんな沢山の機器に繋がれてたらあちこち動くこともできない。
故にベッドの上で仮眠することも多い。
日頃から睡眠を取って、充分な運動もしていなければ夜中に頭が冴えたりもするもの。
「…はぁ」
一向に来る気配のない眠気に、とうとう根を上げた。
「トイレ行こ…」
点滴の管だけ付けたまま、カラカラとキャスターのついた機器を引いて病室を出る。
少し歩こう、気分転換にでも。
「すみません、トイレ行ってきま──…あれ」
病室を出れば、深夜だからか周りは薄暗くて、婦長さんも看護師さんも見当たらない。
誰もいなかったことなんてないのに…珍しいな。
「急患でも出たのかな…」
黙って外出するのは気が退けたけど、到底勝ち目のない、来ない眠気と戦う気はなかった。
すぐ戻って来れば、婦長さんも怒らないよね…多分。
うん、多分。
「おトイレ、行ってきまーす…」
誰もいないけど心持ち的にそれだけ告げて、私は広い病棟の廊下を一人、歩き出した。
カラカラ…
薄暗く長く続く病棟の廊下に響くのは、私が引く点滴の機器だけ。
深夜は消灯するけど、こんなに暗かったっけ…。
そして面白いくらいに人に会わない。
深夜でも見回りくらいはしてるはずなのに。
カラカラと機器のキャスターの音と、ひたひたと自分の足音だけが静かに響く。
その他には何もない。
──カツン、
「っ?」
足音のような音を聞いた気がして反射的に振り返った。
「誰?」
振り返った先。
自分が通ってきた長く暗い廊下に、人影は見当たらない。
空耳、かな…。
そう思うとなんだか背筋が寒くなった。
早く行って、早く戻ろう。
そう思い立った時、既に私の足は小走りに変わっていた。