My important place【D.Gray-man】
第29章 想いひとつ
「ちゃんと自分で調べて…知ったから。神田の体のこと」
「……」
「確かに、高い治癒力を持ってるけど……でも…不死な訳じゃないでしょ…?」
〝命の残量〟
神田の体にも、いつか"限界"はくる。
人のそれは"死"として扱われるけど、神田のそれは人とはきっと違う。
普通の"死"さえも乗り越えて、こうして生きている体だから。
「その体にも…"限り"があるんでしょ…だから無理しちゃ駄目だよ…」
無意識に神田の手首を掴んだ手に力が入る。
体を粗末に扱って欲しくない。
いくら神田が強くても…いつか訪れる本当の"死"があるから。
永遠に生きてなんて言わない。
命はきっと限りあるから尊くて大切に思えるもの。
永遠の生なんて、それこそあのビットリオのように呪縛のようなものになってしまう。
「……」
俯きがちに話してたから、神田の表情はわからなかった。
沈黙ができる。
「…俺は死なねぇよ」
ぽつりと返された言葉は、今までの神田と変わらないものだった。
……だから、貴方もいつかは死ぬんですって。
いくら強くたって。
「神──」
「俺が死んだら、お前泣くだろ」
顔を上げて言い返そうとすれば、言葉を被された。
はっきりと迷いなき声で。
…というか、泣く?
「泣いてただろうが。俺が闘技場でやられた時」
「………泣いてないよ」
それは本当のことだ。
私はあの時、一滴も涙は流さなかった。
だって泣いたら、メイリンの占いと同じになってしまう。
だから唇を必死に噛み締めて耐えた。
絶対に泣かないように。
…まぁ、結果的に神田は一度死んだから…メイリンの占いは当たったと言えば当たったんだけど。
「似たようなもんだろ。あんな顔してたら」
何、あんな顔って…必死に耐えてたから、自分がどんな顔してたかなんてわからない。
…多分、酷い顔にはなってたとは思うけど。
「俺が死んだら、誰がそんな面倒な涙拭くんだよ」
手首を掴んでいない方の神田の手が、私の目元に伸びる。
親指で目の下をなぞるようなその仕草は、あの中庭でしてくれたものと同じ。
まるで涙を拭うような優しい手。