My important place【D.Gray-man】
第29章 想いひとつ
神田のその仕草に、胸がとくりと鳴る。
やっと触れてもらえたことが、嬉しくて。
やっとその目に自分を映してもらえたことが、嬉しくて。
ちゃんと生きている。
生きて傍にいてくれてる。
そのことに酷く安心するのに…同時に胸はドキドキした。
…と、いうか。
「面倒って…」
「面倒だろ。泣いてる癖に泣いてないなんざ言う奴の涙なんか」
溜息混じりにはっきりと言う神田の言葉に、ちょっとだけむっと眉を寄せる。
確かにコムイ室長の実験室では、そんなふうに言ってしまったけど…あの時の私は、まだそんな自分を神田に見られたくなかったから。
……今なら、きっと…見せられる。
…と、思う。
「…だって神田、痛くするから」
「あ?」
少しむすっとした気持ちが残ったまま、抵抗とばかりに言い返す。
「涙拭う手が凄い痛いから。泣いてないって言いたくもなるでしょ」
半分本音だけどね、これ。
涙を拭いてくれるのは純粋に嬉しいけど。
でも目元というデリケートな場所をあんな荒く擦られたら、遠慮したくもなります。
「……はぁ」
するとじっとこっちを見てたかと思うと、不意に溜息を──…ってなんで溜息。
「痛くしなけりゃいんだろ」
目元に触れていた片手が頬に添えられる。
ベッドの傍で屈んだ状態の私の顔は、体を起こした神田とすぐ近くの距離にある。
ふっと、私の顔にその影が──え?
「──っ」
距離の近さに反射的に目を瞑る。
それと同時に、瞑った瞼に柔らかい感触。
……え?
「……」
ゆっくりと触れていた柔らかい何かが離れる。
恐る恐る目を開けると、すぐ近くに神田の顔があって……あって……………え、今……目元にキス、された…?
「な、ん…っ」
思わず頬が熱くなる。
だって、今の。
どう考えたって事故じゃないし、故意的だったし…何より。
年越しのニューヨークでしたような、あっさりとした一瞬の口付けなんかじゃなかった。
柔らかく押し付けられたそれは、確かに感触を確かめるように触れていた。
それはただの肌の触れ合いじゃない。
確かに意思ある行為だった。