My important place【D.Gray-man】
第29章 想いひとつ
「……」
え。嘘。
いやいやいや。
まさか。
「何固まってんだ。こっち向けコラ」
………いやいやいやいや…いやいや…。
………え、本当に?
「……」
ギギギ、と首を軋ませながら振り返る。
見えたのは、さっきと変わらない病室の風景。
…の中、のそりと体をベッドから起こしている、その人。
「…か、神田…?」
恐る恐るその名を呼ぶ。
それに応えることなく、起き上がった体は首や胸に巻かれた包帯を伺うように触れながら、その目は不意に私へと向いた。
真っ直ぐな真っ黒い、どこまでも見透かすような鋭い目。
見間違いようのない、神田の目だ。
「目、覚めたんだ…!」
一瞬固まってしまったものの、一番優先すべきは神田の体の安否。
慌てて桶を机に置いて駆け寄る。
「体の調子は? まだ痛い? 動かし難いところとか…あ、水持ってこようか?」
「いい。平気だ」
全部あっさり断られて、窮屈そうに首の包帯に手をかけた神田がそれを外そうとする。
あ、ちょっと。
「駄目だよ、まだ。お医者さんが外したら駄目って…」
「もう治ってる」
「まだ三日しか経ってないんだよっ? お腹の怪我は治ってるかもしれないけど、そこはまだだってっ」
咄嗟にその手首を掴んで止めさせる。
下手に扱ってまた傷口開いたらどうするの!
すると鬱陶しそうに神田の目がこっちを向いた。
「なんで俺の体のことをお前の方がわかってんだよ。これは俺の体だ」
「それでもッあんなに酷い怪我したんだから…!」
今でも鮮明に覚えてる。
ざっくりと深く斬り裂かれた傷口から、噴き出すように溢れ出ていた鮮血。
あの光景は私の中で早々薄れることはない。
「平気だっつってんだろ。自分の体のことはよく知っ」
「知ってるよ!」
言葉を被せて遮る。
その剣幕に、神田の口が止まった。
「……私も、知ってるよ…教えてくれたでしょ、ちゃんと。…第二使徒のこと」
荒げていた声を抑えて続ければ、ピクリと掴んでいた神田の手首から僅かな反応が伝わった。
第二使徒のこと、調べてちゃんと知ったけど…そのことを神田に伝えたことは、まだなかったから。