My important place【D.Gray-man】
第29章 想いひとつ
「無闇に押し付けたりはしないからさ…だからせめて、抱えさせていてね」
年相応に見える神田の寝顔を見ながら、そっと囁く。
抱えてしまった想いだから、応えて欲しいって気持ちはある。
神田が譲れないものの一つに、私も入れてもらえたら。
そんな浅はかで贅沢な願い。
でも私の根本の思いは、変わらない。
初めて神田の体のことを知って、神田の過去のことを知って、あの暗い夜の書庫室で強く感じた思い。
この人の傍にいたい。
一人で立って生きている神田の隣に、私はいたい。
それは何よりも強く変えられない思いだから。
「……」
もしその場所を失ってしまうなら、下手な想いはぶつけない方がいい。
だから──
「……好き」
微かに消え入りそうな声で紡ぐ。
…この想いは云わない。
いつか云える日がくるかもしれないけど…今はまだ。
こうして、近くで神田の存在を感じていられるなら…それでいいから。
「…なんか照れる…」
ちょっと口にしただけで思わず熱くなる自分の顔に、片手を当てて苦笑い。
そっと最後に神田の長い髪先を撫でて、腰を上げる。
「じゃあ、ゴズと闘技場の事後処理してくるから」
それだけ伝えてタオルと桶を手に、背を向けて部屋を出た。
出ようと、した。
「言い逃げか、いい度胸してんな」
……その足を止めたのは、凄まじい程に背中に感じた威圧でした。