My important place【D.Gray-man】
第29章 想いひとつ
サラサラの美髪を堪能した後、ベッド横の椅子に座ったまま体を倒して、シーツに乗せた腕の上に顎を乗せる。
そうやって同じ高さにある神田の横顔を見ながら、小さく溜息をついた。
ごめんね、ゴズ。
もう少しだけ神田の顔見たら、そっち行くから。
「……」
そっと、その上下している胸の上に手を当てる。
──卜クン
包帯を巻いてるのは右胸だから、左胸に乗せれば…その音は微かにだけど伝わってきた。
──トクン
鼓動の音。
生きている音。
あの時、あの血の海の中で。死ぬはずがないと思っていた神田の"死"を感じたのは…本当に"死んだ"からだ。
開いた瞳孔も呼吸の止まった口も生気を失った顔も。全て、人の"死"によってできるもの。
今まで任務で何度も人の死は見てきたからわかる。
神田は本当にあの時、一度"死んだ"。
だけど止まった心臓を再び動かしたのは、神田のセカンドエクソシストの力。
だからあの時、確かに聴こえたんだ。
神田の心臓が再び動き出す音を。
「……一度死んで生き返るって…どんだけ凄い体なの…」
まさかそこまでできる体なんて知らなかったから、本当に驚いた。
「心臓に悪いから…あんまりしないでよね…」
でも、例え生き返るとしても。
もう二度と見たくないと思った。
だって本当に死んだんだ、あの時神田は。
私の目の前で。
私の目を見ながら。
本当に一度、その命の灯を消した。
本当にあの時、私は大切な人を失ったんだ。
父と母を失った時と同じ、言いようのない深い深い痛みと亀裂。
心を引き裂かれるような、目の前を真っ暗に塗り潰されるような絶望。
…できれば二度と感じたくない。
「……もう無視はできないなぁ…」
…それだけ、神田は私の中で大きな存在で。
それだけ、私には特別な存在。
無視なんてするつもりはないけど…言い訳はきっと利かない。
私は──…この人が好き。