My important place【D.Gray-man】
第29章 想いひとつ
「体拭くから、じっとしててね」
言っても眠ってるから意味はないんだけど、ずっとこうして声をかけるようにしていた。
植物人間になってる訳じゃないから、ひょっこりそのうち目覚めるかもしれないし。
もう三度目になるその行為も慣れたもので、ぷちぷちと着ている病院服のボタンを手早く外していく。
首と肩と胸。それからお腹。
至る所にぐるぐると巻かれた包帯は目に痛い程真っ白で、どこか神田には不釣り合いだった。
…今までもこうして包帯を巻いた姿を見たことはあったけど…ここまで重傷者並みに手当てされた姿、見たことなかったもんな…。
「じゃあ顔から失礼します」
お湯で絞った柔らかいタオルで、顔から優しく拭いていく。
包帯は外すなってお医者さんに言われてるから、そこを避けるようにして。
…相変わらず寝顔は女性並みに綺麗だなー…睫毛なっがい…。
寝ていることをいいことに、まじまじとその顔を観察しながら拭いていく。
輸血のお陰か、神田のセカンドエクソシストとしての力のお陰か、顔色はもう全然悪くない。
こうして見れば、普通に寝ているだけの人に見える。
「本部への任務報告はもうゴズと全部終えたから。報告書も昨日のうちに仕上げたし…後は闘技場の事後処理済ませたら全部終わり」
肩から腕へと拭いていきながら、近況報告をしていく。
「…クラウディアさんはね、今朝この街を発ったよ。あの家を出て」
ビットリオが亡くなった後。クラウディアさんは、きちんと自分の足であのお屋敷に戻った。
そしてしっかりと自分の口で意志を告げて、あの家を出て一人で生きていくと決めた。
『ビットリオがくれた自由だから、ちゃんと大切にして生きていきたいの』
見送りの際、最後にクラウディアさんはそう言っていた。
とても綺麗な笑顔を添えて。
「…凄いよね。まだ16歳なのに…」
それに比べて、私は…クラウディアさんのように失った訳じゃないのに。
今目の前に、こうして大切な人はちゃんと生きてくれているのに。
「…我儘だな」
早くその目に映して欲しい。
早くその口で呼んで欲しい。
早くその手で触れて欲しい。
そんなことばかり子供みたいに願ってしまう。