My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
崩れ落ちる体。
神田のものと、ビットリオのもの。
「神田…ッ!」
アレンの声。
「ビットリオ…!」
クラウディアさんの声。
だけどどれも耳に入ってこない。
「──…ッ!」
一瞬止まったように思えた時は、本当にほんの一瞬で。
弾けるように体が駆け出す。
「神田!」
「待って雪さん! まだAKUMAが…!」
神田を抱きとめていたアレンが、はっとしたようにこっちを見る。
その左目にはスコープが現れ、アレンにAKUMAの存在を知らせていた。
だけどそれに応える余裕なんて、私にはなくて。
「っ雪さんは神田の傍にいて下さい! 其処から動かないで!」
左腕を構えたアレンが地を蹴る。
それと同時に、私は転がり込むように神田の体に辿り着いていた。
肩から胸までざっくりと入った大きな裂け目。
でもそれよりも目を奪ったのは、引き裂かれて夥しい程の血を噴き出している喉元。
「か、んだ…ッ」
咄嗟に喉元を手で覆う。
指の隙間から溢れ出る温かい血。
止まれ、止めないと。
止血しないと。
こんなに大量の出血なんてしたら、死んでしまう。
──死ぬ?
──神田が?
──そんな訳ない
──だって神田の体は普通とは違う
──普通の人じゃ死んでしまう怪我でも、神田は死なない
そうだよ。
死なない。
神田が死ぬはずがない。
「止まれ…ッ」
だから早く止まって。
止まってよ。
「ッお願い…!」
咄嗟にファインダーのマントを脱いで喉元に押し付ける。
あっという間に沁み込んだ大量の血が、マントを真っ赤に染めていく。
止まらない。
どんどん真っ白いマントが赤く染まっていく。