My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「…ッ…」
喉を深く裂いているからか、神田の口が僅かに動いたけれどそれは"言葉"を成し得なかった。
「しっかりして、神田!」
その目を見れば、確かに私に向いていた。
真っ黒い、何もかも見透かすような深い色の目。
普段から気性の荒い神田だから、苛立ちでその目の瞳孔が開いているのは何度も見たことがあった。
だけど。
「…───……」
「何…ッ?」
何か言葉を紡ごうとしているのか、微かに唇が動く。
喉元を押さえたまま顔を覗き込む。
その目は真っ直ぐに私を捉えたまま──
「神田…っ?」
止まる表情。
真っ黒な目の中の、更に中にある黒い瞳孔。
それがじわりと、大きく開いた。
あ…これ……知ってる。
人が生命機能を止めた時に起こる、体の反射だ。
「……神田…?」
ピクリとも動かない体。
真っ直ぐに私を見ていた目は、私に向けられたまま私を"見ていない"。
「神田…ッ!」
じわじわと広がっていく大きな血の水溜り。
噴き出していた喉の血は勢いを弱め、押し当てていたマントからぽたぽたと赤い滴を滴らせた。
瞳孔の開いた目。
動かない表情。
呼吸のない口。
大量の血を失った青白い体。
それは全て紛れもない"死"だった。