My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「最初は怖かった。なんの為に私の前に現れたのか、わからなかったから」
『世界一強い男は未だ現れません』
「でも彼はいつも報告するだけで、静かに帰っていった。……だけど三日前のあの夜、彼は初めて私に尋ねてくれたの。決められた結婚に泣いていた私に…」
『何故泣いておられるのですか』
『父の言いなりで結婚するなんて…嫌…!』
「ビットリオが私を逃がしてくれたわ。あの檻同然の家から…私を助けてくれた、ただ一人の人なの」
「……」
「彼だけでいいのよ…彼が傍にいてくれるなら、他に何もいらないの…ッ」
まるで懇願するような叫び。
その想いに、私は何も言えなかった。
胸が詰まったから。
私にも理解できたから。
唯一、その人だけでいい。
その人の温もりだけでいい、それを私にくれるなら。
「ビットリオさん! 目を覚まして下さい…!」
そこに響いたのは、アレンの声だった。
はっとして目を向ければ、AKUMAへの攻撃を止めずにビットリオを説得しようとしているアレンの姿が見えた。
「貴方はもう戦わなくていいんです! サンドラ姫はとっくの昔に亡くなっています! それを知らずに、貴方は千年も戦い続けてきたんでしょう…!」
「…姫は生きている」
同じくAKUMAをその大剣で薙ぎ払いながら、ビットリオもまた"拒否"を口にした。