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My important place【D.Gray-man】

第28章 ローマの剣闘士



「じっとしててね」


 下の黒い中着を捲った状態で、腹部の傷の消毒にかかる。

 ざっくりと大きく裂けた荒い切り傷。
 一瞬目を背けたくなるようなそれは深い傷だけど、もう血は完全に止まってる。
 神田の体なら多分、もう数日程で治るだろう。

 だけど悪化はしないようにと、手早く消毒して綺麗なガーゼで覆う。
 痛みには慣れてるのか、神田は手当て中何も反応を示さなかった。


「…なんで来たんだよ」


 ただ、唐突にぼそりと問われたことは別にして。

 包帯を巻いていた手を緩めて、近くにある神田の顔を見る。


「よりによってモヤシなんかと」


 ああ…はいはい。
 アレンのこと嫌ってるのはわかったから、そんな怖い顔しないで下さい…。


「私が行きたいってコムイ室長にお願いしたんだよ。アレン一人じゃ心配だったし…」


 再び腹部に視線を落として、包帯を綺麗に巻き終える。
 最後に小さな留め具を引っ掛けて、外れないようしっかり固定した。


「神田とゴズのことも心配だったから」

「…俺は死なねぇよ」

「……それでも、」


 うん、わかってる。
 だって神田の体のこと、ちゃんと教えてもらったから。

 でも、


「心配くらい…したっていいでしょ」


 不安はあった。
 いつも当たり前に任務では隣にいたから、手が届かない距離がこんなに歯痒いなんて知らなかった。

 こうしてすぐ触れられる距離にいる。
 それだけで、ほっとする自分がいる。
 きっとこれは神田の為以上に…私の為だ。


 私が、神田の傍にいたいから。


「はい、できたよ」


 手当てを終えて、救急セットをまとめて腰を上げる。
 そのまま離れようとすれば、それより先に神田に手首を掴まれた。


「…何?」


 顔を見れば、その目は私を見上げていた。
 じっと、手首を握って黙り込んだまま。


「…なんでもない」


 ぽつりと小さな声で呟いたかと思えば、呆気なく逸らされる視線と離れていく体温。
 …なんだろう?

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