My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「我が名はビットリオ。チボリの領主に仕える剣闘士」
低い声で剣を構えたビットリオが名乗る。
「サンドラ姫の命により、お相手致す!」
瞬間、地を蹴ったかと思えばその体はもうアレンの目の前にあった。
「くっ…!」
ガガッ!とお互いの剣がぶつかる鈍い音がする。
アレンの退魔の剣よりも大きなそれを、身軽に振り回すビットリオの姿は圧巻だった。
本当に強い、この人。
慣れているのか、こんな狭い場所なのに無駄な動きを一切せずに攻撃を繰り出していく。
それはイノセンスが関係している故の強さじゃない。
この人本人の強さだ。
「ッ! 僕は戦いに来たんじゃない…! クラウディアさんを返して欲しいだけです…!」
「ならば俺を倒してみせろ!!」
攻撃の合間に説得を試みるも、ビットリオは耳を貸さない。
ガッ!
「──!」
強く弾かれたアレンの退魔の剣が、ヒュンッと一回転して手から離れ飛ぶ。
「うわっ!?」
こっちに飛んできたそれに、結界は張ってるものの咄嗟に飛び退いた。
するりと音もなく結界を通り過ぎた退魔の剣が、ザクッ!と壁に突き刺さる。
あ、危ない…もう少しで当たるところだった…!
というか結界も通り抜けるんだねこれ!
物凄く私には危険物です!
「待ってて、アレン今…!」
「大丈夫です! 来い!」
壁から退魔の剣を抜こうとすれば、それより早くアレンが鋭い声と共に手を翳した。
すると壁に突き刺さっていた退魔の剣が意志があるかのように、一気に壁から抜けてアレンの手元へと飛んだ。
「ッ!」
一瞬、その勢いで手元を掠めた刃に痛みが走る。
思わず手を押さえる。
ジリッとした独特の痛み。
本来なら通り抜けるはずの刃は、確かに私の手を裂いた。
──ドク、
「っ…」
微かなその衝撃の所為か、以前退魔の剣を受けた胸元がドクリと痛む。
駄目。こんな所で。
ぎゅっと手を握る。
落ち着け、私。
自分を見失うな。
見失ったら──…溢れてしまう。