My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「それより…」
アレンの鋭い目が私の後方に向く。
つられるように目を向けて、其処に立っている者を改めて目にした。
知らない顔だった。
鋭い切れ目に、癖の強い茶の髪。
パレッティさんより幾分か若く見えるその男性は、大柄な体に見合った巨大な剣を手にしていた。
アレンの退魔の剣に形は似ているけど、その刃の間から飛び出しているギザギザの刃達は、殺傷能力に秀でた形をしていた。
「此処を勝手に破壊されては困る。貴様らも侵入者か」
その発言からすると、この場所に住み着いてでもいるのか。
巨大な剣を手にした、鎧のような物を身に付けた男性。
……もしかして──
「…剣闘士…ビットリオ…?」
恐る恐るその名を口にすれば、僅かにピクリとその鋭い眼差しが動いたのが見えた。
やっぱり。
この人が、千年生きているという剣闘士。
「…貴方がビットリオさんですか」
ゆっくりと壁から背を離しながら、アレンが呼びかける。
「クラウディアさんを返して下さい。…ご家族が心配しています」
「姫に近寄る者は全て、俺がお相手致す。剣を抜け」
本当に家族が心配しているかと言えば、多分嘘になる。
でも物事を穏便に進ませるために語りかけるアレンに、ビットリオは冷たい顔で剣を構えた。
姫って…やっぱりビットリオはクラウディアさんをサンドラ姫と間違えているのかもしれない。
「雪さん、下がってて」
「うん。でもアレン、周りに気を付けて」
「はい」
何処でカラクリの装置が起動するかわからない。
邪魔にならないよう慎重に距離を取りながら、背中の結界装置に手を伸ばす。
これで私自身を守っていれば、私に被害は及ばないから。
とりあえずアレンの気はビットリオだけに向けられるはず。
恐る恐る足場を確認しながら、アレンの下を離れる。
同時に左腕を抜き取るように右手で手首を掴むと、アレンはその腕を別の形へと変えた。
あ…退魔の剣だ。
「……」
その剣の形を見ると、少しだけ身が竦む。
きっとあれをもう一度この体に受けてしまったら、なんとなく終わりな気がして。
アレンが教えてくれたティキ・ミックというノアと同じに、私も覚醒してしまうかもしれない。
…ノアとして。