My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「にしても此処、なんだか気味の悪いものばかりありますね…」
懐中電灯に照らされた通路のあちこちに見えるカラクリらしきものに、アレンが眉を潜める。
そうだろうな。
仕掛け扉の向こうには錆びた針の山があったり、沢山の鏃が刺さった木板の残骸があったり。
其処には幾人もの血を吸ってきた歴史を物語るかのように、こびり付いたほとんどシミと化した血痕も見えた。
人の殺傷目的で作られたカラクリがほとんどだろうから、そういう拷問機器みたいなものがあっても可笑しくない。
「闘技場だからね。スポーツとか余興の一環として捉えられてても、人を殺してたことには変わりないから」
正当化されてても、人が人を殺す行いなことは事実。
今の世でいう"殺人"と変わらない。
──カツンッ
「「!」」
不意に暗闇に微かに響いたのは足音。
私とアレンとはまた別の。
誰かいる…!?
思わず足を止めて懐中電灯を向ける。
一瞬、光の隅に何か動いたものを捉えた気がした。
「待って下さい!」
「わっ」
唐突に走り出すアレンに、繋いでた手が引っ張られる。
だけどすぐにその足は止まった。
「あれ…?」
「何アレン…っ」
「…壁が」
"何か"が懐中電灯の光から逃げるように消えた場所。
其処には、行き止まりの壁があった。
「…見間違いかな」
「でも何か見えた気がしたんですけど…」
アレンも何か動くものを捉えたってことは、幻覚じゃないのかもしれない。
でも何処に消えたんだろう。
目の前は行き止まりの壁だけしかない。
その壁の存在を確かめるかのように、コンコンとアレンが拳で軽く叩く。
──カチッ
「…え?」
「ん?」
その時、何かスイッチが入るような音が──
「ッ伏せて!」
「わ!?」
急にアレンが私の肩を掴んで強く下に押さえ付ける。
ガガガッ!
思わず前屈みになった私の頭上を、何かが掠めた。
え。
「な…っ」
顔を上げて絶句。
目の前にあった壁に突き刺さっているのは、鋭い何本もの鏃(やじり)だった。