My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「相変わらず、人影はないね」
「そうですね…」
踏み込んだ闘技場は昼間と変わらず、人影は何処にも見当たらなかった。
こんなに大きい敷地だから人も隠れられるだろうけど…神田達なら私達に気付いて出てきても可笑しくないのに。
こんなに閑散としていると少しだけ不安になる。
…神田、何処にいるのかな。
「今度は内部もよく調べてみよう。私が調べるから、アレンはAKUMAの探知の方お願い」
「了解です」
アレンがいればAKUMAが近付いても先に探知できる。
だからこそ私は人捜しに集中できる。
やっぱり便利だなぁ、アレンの左目って。
「陽が落ちたから、暗いね…」
「足元気をつけて下さいね」
「うん」
客席の下にある闘技場の内部を見て回る。
荷物から取り出した懐中電灯で辺りを照らしながら、一つ一つ部屋を確かめていった。
檻のような頑丈な柵が付いているその部屋は、恐らく昔此処で戦った剣闘士を閉じ込めておく所。
剣闘士とは名はいいけれど、元々奴隷だった者が命を懸けて戦わされたのが大半。
ローマの華やな繁栄の歴史の裏は、そういう黒い部分も沢山ある。
「此処にも人の気配はないですね…」
「うん…でも痕跡はあるよ」
「え?」
足元の瓦礫を一つ、懐中電灯で照らす。
刃物か何かが当たったのか、荒削りに削られた跡があって、それはまだ新しい。
よくよく見ればその削り跡は壁にもあった。
「剣闘士かAKUMAか…誰かが付けた跡みたいだね」
壁の跡に触れて、なぞりながらその跡を辿る。
「もしかしたら神田の六幻かも」
「うーん…でも六幻ならすっぱりいってそうだけどなぁ…」
ポンと手を叩いて言うアレンに思わず首を捻る。
神田の六幻なら、こんな壁すっぱりと断ち切ってしまうはず。
跡だけ残すなんてするかな…。
「あ」
「どうしました?」
跡を辿って壁沿いに歩いていた足が、思わず止まる。
後ろから覗き込んでくるアレンに目は向けずに、私は"それ"を指差した。
「階段がある」
大小の瓦礫が無残に転がっているその隙間に。
辛うじて見えていたのは、下に続いていく階段の入口だった。