My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「そんな親だから、そんな婚約者だから。彼女は逃げ出したんじゃないんですか」
「なっ何を…!」
「行きましょう、雪さん。これ以上話を聞く必要はないです」
「あ、うん」
「すみません、失礼します」
頭を下げて部屋を後にする。
後ろをついてくる雪さんの気配を感じながらも、歩くスピードは緩められなかった。
早く出よう、こんな所。
僕達は僕達でクラウディアさんを捜した方がいい。
「──ふふ、」
「?」
屋敷の敷地外に着くと後ろから小さな笑い声がして、思わず振り返った。
見れば、口元に小さな笑みを浮かべている雪さんが其処にいた。
「なんですか?」
「なんかアレンらしいなぁって」
「僕らしい?」
「うん。そういう真っ直ぐに優しいところ。アレンが持ってる素敵なところだよね」
…あ。
そういえば前にもそんなこと言われたっけ。
ララの前で涙を流した僕を、綺麗だって。
雪さんは優しい顔で笑って言ってくれた。
「僕はそんなふうに言われる程、素敵な……綺麗な、人間じゃないですよ」
…そんな、自分を綺麗だなんて思ったことはない。
エクソシストとしてララの体からイノセンスを抜こうとする、神田を止めた時も。そんな綺麗な気持ちでララを守ろうとしたんじゃない。
僕はちっぽけな人間だから。
大きな世界より、目の前のことに心が向いてしまうだけ。
そこに助けられる命があるなら、助けたいと思ってしまうだけ。
自分が見たくないだけだから。
人やAKUMAが傷付く姿を。
「だから綺麗なんでしょ」
「…?」
だから?
意味がわからず足を止める僕の横を、雪さんが通り過ぎていく。
「自分のことを"綺麗"だなんて思ってる人が、綺麗な人だと思う?」
「それは…」
「アレンは今のままでいいよ。そんなアレンだから、私は綺麗だなって思ったの。誰かを救える破壊者になりたいって、泣いたアレンの涙」
顔だけ振り返って、僕に向かって笑みを見せる。
…あ、これ。あの時見た笑顔と一緒だ。
いつもよく周りに見せている笑顔とは違う、優しい微笑み。