My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
ローズクロスを見せて"黒の教団"だと名乗れば、サルディーニ当主はあっさりと僕達を迎え入れてくれた。
改めて思うけど、"黒の教団"の知名度って凄いなぁ。
「好きに座ってくれ」
「はい」
「失礼します」
促されるまま、大きな部屋の高級そうなソファに腰を下ろす。
「聞かせてもらってもいいですか? ビットリオのこと」
問いかける雪さんに、サルディーニ当主も向かいの椅子に座りながら一つ頷くと、すんなりとその口を開いた。
「中世の剣闘士が現れたなどと娘が言い出したのは、一ヶ月前のことだ。最初は夢でも見たのだろうと相手にしなかった。…しかしその後も夜になると奴が来て、自分に報告するのだと言い続けた」
「報告?」
「なんでも…"世界一強い男は未だ現れません"だとか」
溜息混じりにサルディーニ当主が、大きく肩を下げる。
「儂はふざけるなと叱ったのだが…娘は本当のことだと言い張りおった。そして三日前、よりによってパレッティ子爵との婚約が整った日に……全く、親不孝者め。何を考えておるのだ」
ぶつぶつと最後はただの愚痴のようになるその言葉に、思わず眉を寄せた。
大事な一人娘が攫われたっていうのに、その命より状況を嘆くなんて。
「然様。全く何を考えておられるのか、クラウディア嬢は」
「む、婿殿っ?」
そこに舞い込んでくる別の声。
見れば部屋の入口に、婚約者のパレッティさんが立っていた。
「私と結婚すれば、一介の商人から成り上がったサルディーニ家も貴族と縁続きになり、ようやく念願かなって上流階級への仲間入りができる。これ以上の親孝行はないというのに」
溜息混じりに、そう口にしながら。