My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「…それだけ信頼できる何かが、神田とあったってことですか?」
「え?」
気付いたらそんなことを問いかけていた。
きょとんとした顔の雪さんが、こちらを向く。
そして。
「……」
「雪さん?」
あ、赤くなった。
「う、うーん…なくもないというか…」
曖昧な表現をしながら、そっぽを向く。
それに似た反応は、ロンドンの任務でも見たことがあった。
『神田だってちゃんと笑う時あるから…気持ち悪く、ないと…思う…』
そう、赤い顔を隠すように俯かせていた。
口にしたのはやっぱり神田のことで、笑顔がどうだとか…。
…神田の笑顔か……想像しようにも想像できないけど。
雪さんはその笑顔を見たことがあるみたいだったけど、僕は一度もない。
想像すらできない程、神田はいつも無表情か仏頂面だし。
そんな人の笑顔を知ってるってことは…神田もそれだけ雪さんに心を開いてるってことになるのかな。
「胸張って話せる程のことじゃないよ」
あはは、と照れの残る笑顔を浮かべる雪さんは、それ以上は教えてくれなさそうだった。
気になるけど…ティムの映像を見られなかった時と同じ。
聞くとどこか後悔してしまいそうで、それ以上は聞けない。
「それよりまずは腹ごしらえしよっか」
そう言って、辿り着いた飲食店のドアを雪さんが開ける。
カラン、とドアに付いた鐘が鳴って。
「あん?」
その音に反応したのか、店内にいた人が一斉にこっちを──…ガラ悪っ。
「…失礼しました」
笑顔でぱたん、とドアを閉める雪さん。
「──さ! 次のお店行こうか!」
「…ですね」
中で食事を取っていた人の大半が、ガラの悪そうに見える人達だった。
そんな人達がいても気にはならないけど、無闇にそんな店内に入る必要もない。
にこにことわざとらしい程に満面の笑みを浮かべる雪さんに、素直にここは賛同することにした。