My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「わー、おっきな街だねー」
「これだけ大きいなら、神田達のことを知っている人もいるかも…あ、いい匂い」
馬車移動よりは時間はかからず、やがて辿り着いたのは活気ある大きな街だった。
ふわんと鼻をくすぐる美味しそうな匂いに、つい目が向く。
「あはは、お腹減った? じゃあ近くで食事がてら情報収集しよっか」
「いいんですかっ」
「お腹の音を鳴らされ続けるよりはね。あそこでいい?」
「はいっ」
サクサクと進む雪さんの横を足取り軽く進む。
…というか、
「雪さん、あまり慌ててませんよね」
「ん?」
心配するな。と雪さんに言った手前、そうしつこく聞けないけど。
ローマに着いた時も心配そうにしていたけど、慌てる様子は全く見せていなかった。
神田のこと、心配なんだろうけど…あの"占い"は信じてないのかな。
「あの"占い"のこと」
「ぁー…うん。神田に、鵜呑みにするなって怒られたからね」
苦笑混じりのその口から零れたのは、神田の名前。
音信不通になる前に、言葉でも交わしてたのかな…。
よくはわからなかったけれど、よくわかったことは一つ。
それだけ、神田の言葉は雪さんにとって大きなものなんだ。
「信頼してるんですね、神田のこと」
「信頼?」
言えば、きょとんとした顔が向く。
「信頼…これ、信頼なんだ」
まるで今言われて気付いたかのように、雪さんは何度も感心するように頷いた。
…そういえば。
マテールでの任務では、神田と雪さんの間に信頼関係みたいなものは見えなかった。
あれから二人の関係性は、変わったってことなのかな。
「そっか…」
不意に雪さんの表情に笑みが浮かぶ。
柔らかいそれは教団内で色んな人と社交的に関わっていても見たことがなかったもので、つい言葉を呑み込んだ。
「前は、信頼関係なんて全くないと思ってたからなぁ…」
しみじみと空を見上げる雪さんは、果たして何を思い出しているのか。
…少し、気になる。