My important place【D.Gray-man】
第6章 異変
✣
「それさ、思ったんだけど。教団の方に請求書送ってくれたら、お金無くとも帰れたんじゃないかな」
夕方、もう陽の入り間近な頃。
やっと黒の教団に帰り着いた私達を、コムイ室長は笑顔で迎えてくれた。
そう、笑顔で。
解決策を口にしながら。
「あ。」
「……」
思わず間抜けに声を漏らす私の隣で、神田も黙り込む。
そんな簡単なことも思い付かなかったなんて…私達、二人して間抜けでした。
「す、すみませんっ」
「うんうん、そういう時もあるよ」
「まぁ仕方ないさ。神田は団服作り直すから、科学班の所に持っていけよ」
勢いよく頭を下げれば、室長は変わらない笑顔のまま。
隣に立っていた科学班班長のリーバーさんも、頭を掻きながら苦笑した。
コムイ室長はこの教団で一番偉い人だけど、このフランクさには時々救われる。
ありがとうございます、本当に。
「チッ」
面倒臭そうに舌打ちしながら、神田が司令室の扉を開く。
さっさと出て行くその背中を確認して、私は再び室長へと向き直った。
神田との任務後の報告は基本いつも私一人で済ませていて、今回もそれはなんら変わりないことだったから。
「AKUMAのウイルスを…受けただって?」
ただ一つ。
どんな任務内容でも割とフランクに受け取っていた室長が、顔色を変えたことだけを除いて。
「雪、本当なのか?」
「全て報告書に記載した通りです。偽りはありません」
驚き問い掛けてくるリーバーさんに頷いて返す。
神田は言ってきた通りに怪我の詳細は本部に伝えていなかったようで、私は包み隠さずそれを報告書に上げた。
「そうか…」
何か考え込むように、難しい顔で室長が黙り込む。
中国人であるコムイ室長の優しい切れ目は、神田とは印象が随分違っている。
その穏やかな優しさが消える程の顔は、珍しいものだった。
神田が自分の血で、私の中のAKUMAウイルスを浄化した。
それはやっぱり稀なことだったらしい。
「そういえば雪くんには伝えていなかったね」
報告書を机に置いて、室長の目が私へと移る。
「神田くんの体のことについて」
真剣な顔で紡がれたその言葉に、私は自分の体が強張るのを感じた。