My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
雪さんと一緒の初任務。
其処で怪奇現象となっていた"マテールの亡霊"。
五百年生き続けていると噂されていたその正体は、イノセンスを宿した人形──"ララ"だった。
『甘いな、お前は。俺達は破壊者だ。救済者じゃないんだぜ』
『……わかってますよ。でも僕は──…』
AKUMAに一度、その身に宿していたイノセンスを奪われてしまったララは"心"を失ってしまった。
それでも最後まで愛した人──グゾルの為に歌い続けた。
グゾルが死んでも尚、自身が壊れるまで歌い続けたララ。
"心"を失ったララは、もうただの人形だったけれど。
『ありがとう、壊れるまで歌わせてくれて。──これで約束が守れたわ』
最期の時、彼女は確かに"生きていた"。
『神田…それでも僕は、誰かを救える破壊者になりたいです』
あの時、迷いなくそう思えたんだ。
エクソシストは決して救済者なんて綺麗なものじゃない。
AKUMAを破壊する為にイノセンスを宿しているから。
それでも、そのAKUMAに縛られた魂を救済する為に僕は生きている。
目の前に救済すべき命があるのなら、それを救えるだけの力があるのなら。
僕は迷わず、手を差し伸べたい。
それは人もAKUMAも同じ。
『…綺麗だね』
ララの亡骸となった人形を抱いて涙を零す僕に、雪さんは傍に寄るとそう笑った。
『アレンのその涙。私には、流せそうにないや』
どこか乾いた笑みを浮かべて、でも少しだけ哀しそうに。そう笑って、マントの袖で涙を拭ってくれた。
『その涙、失くしちゃ駄目だよ。きっとアレンにしかないものだから』
『僕にしかないもの…?』
『うん。持とうと思っても簡単には持てないものだから。忘れないで』
忘れないで、と口にする雪さんは儚く笑っていた。
自分には持てないものだと言うかのように。
淡々と任務遂行だけを目指していた雪さんの表情が、微かに変わった一瞬に思えて。
なんとなく、雪さんのその笑顔は僕の心に引っ掛かった。