My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「拒絶って何がっスか?」
「…イノセンスにってことだよ。ほら私、普通の人間だし。比喩的表現で」
笑顔でチャオジーにそう伝えれば、納得したように頷いてくれた。
それはある意味、本当のこと。
比喩的表現ではなく、本当に拒絶されたんだけど。
「じゃあもう行くね」
下手にボロが出る前に撤退しようと、踵を返す。
またヘブラスカに体を調べられたら、ノアのことがバレるかもしれない。
「すまなかった…」
「もう謝らないでよ」
それでもまだ悲しい声で謝罪するヘブラスカに、顔だけ振り返って。
「ヘブラスカが私に何かした訳じゃないでしょ。だから謝る必要なんてない」
今まで言えなかったことを、初めて彼女に口にした。
あの実験の関係者だったとしても、私とヘブラスカの間に接点はなかったから。
そんなヘブラスカにわざわざ怒りを向けようだなんて、今更思わない。
私はこうして、生きてるんだから。
今はきっとそれでいい。
「…そう…か…」
はっきりと意思ある言葉で伝えれば、何か紡ごうとしたヘブラスカの口の動きが止まる。
「…そうだな…」
やがてぽつりと零れた声は、もう悲しい響きをしてはいなかった。
…うん、よかった。
だからもう私に負い目なんて、感じないでよ。
同情されるのは、好きじゃないんだ。
「それじゃあ、今度こそ間違えずにアレンの検査してね」
「…ああ…」
笑って言えば、その大きな口元に確かにヘブラスカも笑みを浮かべてくれた。
「アレンもあんな検査するんさなー…頑張れ☆」
「なんかその笑顔ムカつくんですが」
「俺、装備型でよかったっス…」
今度こそ外に続くドアに向かう。
後方から聞こえるラビ達の会話を耳にしながら、私は自分の掌を見下ろしていた。
ヘブラスカを憎いと思ったことはない。
でも有無言わさず好き勝手に体を弄られることに、感じたものは確かな"負"の感情。
「……」
その強い拒絶のような意志を感じた途端、一瞬掌に走った"何か"。
あれは──…なんだったんだろう。