My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「そ…それより! 急にあんなことしたら雪さんが大怪我しますからっ!」
場の流れを変えるように、赤い顔のままアレンが向けた矛先は、黙り込んでいるヘブラスカ。
そんな咎めるアレンの言葉に、ヘブラスカは何も応えなかった。
目なんてないけれど、その視線はじっと私に向けられているように思える。
「……すまない…雪…」
やがてぽつりと漏れた言葉は──…あ。
あの時と同じ、どこか悲しい謝罪の声。
「ただ…その違和感が知りたかった…だけだ……もしかしたら…イノセンスの適合かも…しれないと…」
「それはないよ」
静かなその言葉を遮る。
「そんなことある訳ない」
それは確信。
私の体に起きた異変は、イノセンスとは間逆のこと。
でも例えそんな兆候がなくたって、適合者の可能性なんて…私は欲しくない。
「私はただの人間だから」
私が望んだものは人間。
認めて欲しかった父のイノセンスは、もうこの世にはないから。
今更、特別な力なんて欲しくない。
「だからこれ以上…私の体を弄らないで」
ぐっと拳を握り締める。
体を好きに弄られるのなんて今更だけど、良い気はしない。
あの暗い地下室で与えられた感覚は、きっと私の中から消えることはない。
「……」
その言葉の真意を感じ取ったのか、ヘブラスカはそれ以上何も言わなかった。
「…ヘブラスカが悪い訳じゃないよ」
握った拳を解いて顔を上げる。
貴女を責めたい訳じゃない。
でも今更適合者か否かの確認なんてしなくたって、結果はわかってる。
「拒絶されることなんて、今更だから」
父のイノセンスを壊してしまったんだから。
父に認められなかったのに、他のイノセンスに認められるはずがない。
アレン達がいる手前、明確な言葉では言えなかったけど…どうやらヘブラスカには伝わったらしい。
「…そう…だな…」
どこか悲しい声で、でも大人しく引き下がってくれたから。
「違和感は…その"名残り"だったのかも…しれない…」
何年も昔のことなのに、そんな"名残り"がまだ体に残ってたらごめんだけど。
うん、面倒だし。
じゃあそういうことでお願いします。