My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「ありがとう、アレン」
「いいえ」
アレンに礼を言えば、その傍にしゅるりとヘブラスカの髪の束が近付く。
検査の邪魔になるだろうし、軽く片手を挙げてアレンから離れようとした。
「じゃあ──…ん?」
しゅる、と髪の束が巻き付いたのは、アレンではなく軽く挙げた私の腕。
……。
……えっと?
「…雪…」
「何──わぁっ!?」
「えっ!?」
ヘブラスカが私の名を呼んだかと思えば、音もなくするすると伸びた髪の束は一瞬で私の体に絡み付いた。
そのまま腕や足や胴体に絡んだまま、なんなく私の体を宙に持ち上げる。
「ヘブラスカっ? 何を…!」
「うわわッ雪さん!?」
「ありゃ。ヘブラスカの奴、雪とアレン間違えてんさ」
視界の隅に見えたのは。驚くアレンと、焦るチャオジーと、一人暢気にのたまうラビ。
…ちょっと其処の兎さん。
「な、何ヘブラスカっアレンはあっちだけどっ」
「わかっている…」
体の向きを変えられて、目の前に巨大なヘブラスカの顔が近付く。
慌てて呼びかければ、冷静な声で応えられた。
わかってるって。
じゃあなんでこんなことするの。
私エクソシストじゃないんですけど!?
「放し──」
ぞわ、
放して、と言葉にしようとして、それは最後まで吐き出せなかった。
体をしゅるしゅると纏う髪の束から感じる気配。
それが、私の肌を粟立たせたから。
「っ…」
何、これ。
体がぞわぞわする。
嫌な気配。
「ぁ…っな、に…ッ」
全身に鳥肌が立つ。
その嫌な気配に、上手く息ができずに呼吸が荒くなる。
体を這うその髪一束一束が、ぞわぞわと私の肌を舐めていくような感覚。
気持ち悪い。
「あ、あれ何してるんスかね…っ!?」
「うわー…なんか…見ちゃいけねぇもん見てる気分」
「何阿呆なこと言ってるんですか! 馬鹿ラビ!」
後方から聞き捨てならないラビの言葉が聞こえたけど、それに言い返すだけの余裕はなかった。