My important place【D.Gray-man】
第28章 ローマの剣闘士
「これが今回、回収したイノセンス。お願い」
両手でマフラーごと、軽く上げてイノセンスの結晶を掲げる。
しゅるりと伸びた髪の束が絡め取るように、でも繊細な手つきで結晶を取り上げた。
するりと、離れる際に私の手首に触れて撫でていくヘブラスカの髪。
さり気なく労わるかのようなそんな動作に、彼女の優しさを感じた。
「………適合者が不明の…イノセンスか…私の中で、暫し眠れ…」
「うわぁ、あれなんスかっラビさん」
「へブラスカの体内さ。あそこにイノセンスを一時的に、所持しておくことができる」
ヴン、とヘブラスカの体から四方に浮かぶ半透明な円形模様。
それは109個のイノセンス全てが所持できるよう、孔が刻まれてある。
取り上げたイノセンスが、まるで意思があるかのようにヘブラスカの体内に飛んで一つの孔に収まる。
よし、これで任務完了。
「ラビ、マフラーありがとう」
「ん、」
ラビに借りていたマフラーを返して、傍に立つヘブラスカを見上げる。
…今ならわかる。
ヘブラスカが私に謝罪の言葉をかけた意味。
あの適性実験の関係者だったヘブラスカは、自身の能力で何人もの咎落ちを作り出してしまったらしい。
後に自分で調べて、ヘブラスカのその情報を知った。
だからこそ、同じ実験経験者の私にあんな言葉をかけたんだろう。
謝罪の意味を理解はしたけど、そのことをヘブラスカに問いかけたことはない。
そんなこと今更だし、もうその口から謝罪の言葉を貰ってしまったから。
これ以上そんな過去を、わざわざ穿り返して話す理由もない。
「これで私達の任務は終わりだね。お疲れ様」
「うっス」
「アレンの検査ってオレ気になるなー。見学してい?」
「お断りします」
ニパッと笑顔で尋ねるラビを、これまたにっこりと綺麗な笑顔で拒否するアレン。
うん、だよね。
ラビとか変にからかってくる性格だから。
あんまり見られたくないよね。
その…髪なんだけど、触手に絡まれるっていうか…そんな姿。
……だからリンクさんにも席を外してもらってるのかな。
もしかして。