• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第28章 ローマの剣闘士



「ヘブラスカ」


 荷物から取り出した、ラビのマフラーに包まれたイノセンスの結晶を手に広間の中央へと向かう。
 空中に浮くように四方から迫り出している通路は、この広間の住人と対話し易いように作られたもの。


「…おかえり…雪…」


 しゅるりと、白く綺麗な触手のような髪の束のようなそれが通路の下から伸びる。
 そのままゆっくりと、目の前に眼下から現れたのは巨大な人。
 "人"と言うには多少疑問を浮かべるような容姿をしているその女性こそが、この広間の住人である"ヘブラスカ"。


「コムイ…から…聞いている…イノセンスの回収…ご苦労だったな…」


 沢山の触手のような髪の束を纏っていて、顔に見えるのは女性のような口元だけ。
 その"人"とは一瞬思えぬ容姿のヘブラスカも、イノセンス適合者の一人。

 "石箱(キューブ)"と呼ばれる特殊な原石であるイノセンスの適合者だからこそ、教団の中でも特異な存在だった。
 イノセンスの番人であり、教団設立当初から在籍している、もう百年以上生きている存在。


「よく無事で…帰ってくれた…」

「うん。ありがとう」


 落ち着いた女性の声で、労いかけてくれる言葉。
 見た目は色々と驚くものを持ってるけど、その性格はこの声と同様に優しいと思う。


 ヘブラスカとの初対面は、クロス元帥の傍について教団で過ごしていた幼い時だった。

 初めて見るヘブラスカのその姿に、幼い私はクロス元帥の後ろに隠れて出てこれなかった。
 そんな私に、怖がることはない。とヘブラスカは優しい声をかけてくれた。

 優しいのに、その声はどこか悲しい響きをしていて。





『…すまない…』





 私を見て、その大きな頭部を下げて謝罪の言葉を口にした。

 あれはどういう意味だったのか。
 後でクロス元帥に尋ねると、ただ笑って返されただけだった。

 元帥のその顔も、どこか少し悲しい表情に見えたから。
 幼いながらに、それ以上聞いたら駄目だと口を閉ざした。

/ 2637ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp