My important place【D.Gray-man】
第27章 夢現Ⅱ
「ボク達は雪を傷付けないから。雪の体を玩具にしたりしない」
小さな両手が、私の手を包むように握る。
私より小さな手なのに、何故か酷く安心した。
「大丈夫。ボクが雪を守ってあげる。もう一人のおうちに帰らなくていいよ」
……え?
「もう一人ぼっちで泣かなくていいから」
欲しかった言葉。
欲しかった温もり。
…あれ。
私、この子のことを知ってる…?
「ボクがちゃーんと、迎えてあげる」
ゆっくりと、少女の顔が私を見上げる。
見えなかったはずの目元が、ゆっくりとクリアになっていく。
金色のぱっちりとした猫目。
ツンツンとした真っ黒な短髪。
愛嬌のある可愛らしい顔なのに、見上げるその表情はどこか大人びていて優しくて。
「"おかえり"って」
そう、微笑んだ。
私が欲していた言葉を口にして。
「だから帰っておいで。ボク達の所に」
…あ。
この優しさはきっと、同情なんかじゃない。
でも、なんて言ったらいいんだろう。
向けてくれるこの子の感情を…私は知らない。
こんな優しさ、向けられたことがなかった。
「帰る…?」
「そう。"ただいま"って言える所」
「ただ…いま…」
『只今戻りました』
教団でもその言葉は何度も吐いたことがある。
でも、なんだろう。
この子が発するその響きは、それとは違うもののように聞こえた。
当たり前に帰る場所。
温かくて安心する場所。
見返りも何もない、何も持っていない私を当然のように迎え入れてくれる場所。
私が、焦がれてやまなかった場所。
「……」
「雪…?」
唇を噛み締める。
そんな私を見上げる少女の金色の目が、丸くなる。
そして不意に、ふわりと笑った。
「大丈夫」
背伸びした小さな手が、私の前髪に触れる。
よしよしと、小さな子をあやすように撫でる小さな手。
「大丈夫だよ。大丈夫」
…ああ、この声。
何処かで聞いた気がする。
酷く安心したんだ。