My important place【D.Gray-man】
第25章 ノア メモリー
「ありがとう。私を見てくれて」
赤い髪に少しだけ触れて、手を離す。
すると背中に回されていた腕の力が緩んで、ラビの顔が上がる。
「私も、ちゃんと見ていたい人がいるから。それは譲れないんだ」
それは迷いのない、自分の気持ちだ。
しっかりとラビの顔を見て告げれば、翡翠色の目は一瞬だけ丸くなって、それから微かに苦笑した。
「…ん。知ってた」
流石次期ブックマン後継者。
さっきはっきりと神田の名前を挙げたラビだから。本当に気付いていたんだろうな…私の気持ち。
私は今、ラビに気付かせてもらったんだよ。
私の中にある"想い"。
「ユウのことになると、雪はオレの知らない顔するから」
知らない顔?
…どんな顔してたんだろ。
「悪ィ、急にンなこと言って」
「ううん。…嬉しかったよ。ありがとう」
その気持ちに偽りはない。
私はラビとの程よい距離に、都合良さを感じて甘えて浸かっていたのに。
そんな私を、ラビはちゃんと見ようとしてくれていた。
贅沢だなって思う。
私のどこに目を止めてくれる要素なんてあったのか、よくはわからないけど。
でも、ラビのその好意は決して同情や哀れみなんかじゃなかったから。
前の私なら、きっとこんなふうには思えなかった。
他人の思いに興味なんてなかったから。
でも。
誰かに自分の思いを伝えることが、どんなに勇気がいることなのか。私も知ったから。
きっとラビも、勇気を持って伝えてくれたんだ。
そう思うと、そんな気持ちを軽視なんてできない。
「あーあ、恰好付かねぇなー。オレ」
茶化すように、明るい顔でラビが笑う。
そんなことないよって言ってあげたかったけど、今の私がラビを偉そうに肯定はできない。
…ただ、
「恰好付かなくたって、いいよ。ラビらしくあれば、それで」
ラビはラビ。
その代わりは誰にもできない。
それだけはラビにだけ向けられた私の本音だったから。
「そんなラビだったから、私は傍で息ができた」
「…そーさ?」
「うん」
ヘラリと笑っていた顔が、ふと柔らかくなる。
「じゃ、それはオレの役得ってことで」
そしてまた、にぱっと普段の顔で彼は笑った。