My important place【D.Gray-man】
第26章 ワレモコウ
"適合者の血筋から使徒を作り出す実験"
それは紙の上に記載されてる文字の羅列だけでも、えげつないものは多々あった。
薬漬けの食事。
血だらけの身体検査。
人の生命線の限界まで行う適性実験。
そういうもんを経験して、それでもこの教団に身を置く雪は強いと思った。
"不適合者"と見なされた雪は、いうなれば教団にとっては"失敗作"。
特異な力や体質も何もない、ただ実験に失敗して命拾いした人間。
そんな周りに求められる要素なんて何もない雪が、教団にいる意味はない。
それでも此処にいるってことは、恐らくそれは雪自身の意思。
"失敗作"なんてレッテルを貼られても、逃げずにその中で一人立っている。
ただただ、すげーなと思った。
立ち続けようと思える程の何かを抱えているのかもしれないけど、そういうもんを雪が見せてきたことはない。
そうやって周りと一歩距離を置いていて、当たり障りなく接してる。
だけど。
そうやって周りにいる者を、ちゃんと"人"としても見て接してる。
自分は"人"として見てもらえなかったはずなのに。
不思議だと思った。
もっと知りたいと思った。
そうやって知れば知る程、好奇心は掻き立てられて。
そうやっていつの間にか、雪自身に惹き付けられて。
あの夜の書庫室で、オレの心が雪に向いてると知った時、気付いてしまった。
『…知らなきゃよかったって思う情報も、偶にある』
"情報"として知った雪の過去が、オレの枷になってしまったことを。
何も知らずにまっさらな気持ちで雪と知り合えていたら、素直に自分の心を認められたのに。
"情報"として雪を見てしまっていたから、雪に向いた心が、それ故に生まれたただの興味みたいに思えて。
そんなんじゃないって、思いたいのに。
真っ直ぐな心で雪を見ているのか、わからない自分がそこにいた。