My important place【D.Gray-man】
第26章 ワレモコウ
「──えっ! あの髪飾りがイノセンスだったんスか!?」
「うん、その中にあった結晶がこれ」
「わ…っこれが…っ?」
「イノセンスの原石だね」
雪が荷物から取り出した、オレのマフラーで包まれたその結晶を見せる。
キラキラと光るそれに、同じくキラキラと目を輝かせるチャオジー。
そのキラキラの目が、不意にオレに向く。
「流石ラビさん…! あんなに怖がってても、ちゃんとイノセンス回収するなんて!」
「ぉ、おうっだろ!」
尊敬の目を向けられて、思わず笑って返す。
なんとか未だに震えてる足腰は誤魔化すことに成功。
よかったさ、先輩としての面子は立った。
疑問を唱えるチャオジーを引き摺って、急いで逃げ込んだのは近くの村の宿屋。
本音は方舟で一直線に本部に帰りたかったけど、説明を求めたチャオジーの為の緊急対処。
「それで、なんでそんなに慌ててたんスか? イノセンスを回収できたなら、逃げ帰る必要もないのに…」
「「……」」
…やっぱそこ突いてくるさ?
純粋に疑問に感じてるだけだろう、チャオジーのその問いにオレと雪は答えられなかった。
…言えるかよ。
まさか本当にあの人形が、幽霊かなんかの怪奇現象だったなんて。
イノセンスを回収しても尚、オレ達に向かって笑い続ける謎の人形。
そんな人形を前に冷静なんて保ってられなかったオレは、雪の手を掴んでその場から逃げ出した。
その途中で偶然チャオジーを見つけてから、一連のこれ。
そして今に至る。
イノセンス絡みの怪奇現象だけでも、充分怖いってのに。本物とかやめろよな、マジで。
…オレ暫く、人形とか触れられない気がする。
「とにかく、イノセンスは無事回収したんだし。さっさと本部に戻るさ」
「それは私も賛成。…と言いたいところだけど。此処の方舟ゲートがある施設は、もう閉まってるんだよね」
腕時計を確かめながら、雪が肩を落とす。
確かに時刻は、もう深夜2時前。
団服のローズクロスがなかったら、この宿屋にも入れさせてもらえなかった。
「一晩、此処に泊まってから帰ろう」
…こればっかりは仕方ないさな。