My important place【D.Gray-man】
第5章 夢Ⅱ.
「教えてくれたら、もう呼ばないから」
それでお嬢さん呼びをやめてくれるなら、簡単なことだと思った
だけど、何故か
…口から名前が出てこない
「…あれ。もしかして勘の良い子かな」
不意に声が遠くなる
僅かにしか聞こえないけど、少し低くなったようにも聞こえて
…なんだろう
急に不安になった
──"逃げないと"
…逃げる?
「やっぱまだ少し、早過ぎたか」
知らない男性の声
知らないことを当たり前に口にして
意味がわからないから、不安になる
起きて
夢なら、覚めればそこで終わり
早く起きて、早く
そう自分に言い聞かせると、どんどん意識が薄れていくような感覚に陥って
あ、目が覚める
唐突にそう悟った
「だーめ」
瞬間、再び耳元で声がしたと思ったら
強い力で、腕を掴まれた
…え?
「逃げたら、捕まえたくなるだろ」
目が合った
金色の瞳
褐色の肌
真っ黒な髪は、癖が強く無造作にうねっていて
その隙間から見える目元の黒子
これは、誰
「俺のこと、憶えててね」
一瞬だけだった
一瞬だけ、腕を掴んだその男性が、目の前にいたような気がして
体温もその声も間近に感じて
そして一瞬
意識はあっという間に、薄れていった