My important place【D.Gray-man】
第25章 ノア メモリー
「水音なんてオレ聞こえねぇけど…」
「俺もっス」
「でも確かにしたんだよ」
その微かな音に誘われるように、暗い廊下を曲がる。
「…あれ?」
すると微かに聞こえていた水音は、聞こえなくなった。
「音、何処から聞こえてるんスか?」
「それが、さっきまで聞こえてたんだけど…」
おかしいなぁ…空耳だったのかな。
首を傾げながら灯りを手に進んでいると、パシャリと聞こえた水の音。
──あ。
「…あった」
視線を足元に下げる。
そこには、いつの間にできていたのか小さな水溜りがあって、自分の足が片方だけ浸かっていた。
これがさっきの水音の原因なのかな。
「また誰かが零した水なんスかね?」
「…多分、違うんじゃねぇかな」
チャオジーの言葉に、静かな声で応えたのはラビだった。
その顔が、水溜りから上がって横へと向く。
「この水、その部屋から溢れてるさ」
つられるまま目を向ければ、ドアの下の隙間からじわじわと水を溢れさせている部屋の入口が一つ。
「じゃあこの中に人形が…痛っ」
ピリッとした痛みが水に浸かった足先から伝わってくる。
反射的に足を上げて、水溜りから退く。
「どしたんさ」
「ううん」
なんだろう、静電気?
「とにかく入ってみましょうっ」
「あっ」
「おいっ」
私達に構わず、潔くドアに手をかけて勢いよく開けたのはチャオジー。
そこには一部の迷いもない。
流石エクソシストの鏡。
部屋の中は、床一面水浸しだった。
三人で恐る恐る、水浸しの部屋に足を踏み入れる。
「この水、どっから来てるんさ」
「水道管みたいなものはないっスねぇ…」
「っと…わ、」
「見た目にはフツーの水っぽいけど」
「あの人形も、見当たらないっス」
「っ…ちょ、」
「そーさなぁ…って。何してるんさ雪」
二人の後に続いて部屋に入ってぎこちなく進む私に、あちこち見渡していたラビの顔が向く。
いや、その。
「なんかこの水、変じゃない?」
なんとかパシャパシャと水の床を渡って、部屋の中心にあった瓦礫の山に上がる。
「変って何が?」
首を傾げるラビに、どう答えたら伝わるのか。なんとなく上手い表現が思いつかない。