My important place【D.Gray-man】
第25章 ノア メモリー
駄目だ。
若干凹みそうになった思いを振り払うように、頭を軽く振る。
神田は迷いなく、私を見てるって言ってくれた。
信じろって、そう言ってくれた。
例えラビの言う通りだったとしても、今私が見ていたい人は神田だから。
きっと神田も同じように見ていてくれてるから。
なら、きっとそれでいい。
「…チャオジーは食べる?」
笑顔に切り替えて、チャオジーに携帯食を差し出す。
「はいっス!」
頷いて受け取るチャオジーを見ながら、簡単に揺らぐ自分の心に小さく溜息をついた。
誰かの為に、なんて今まで思ったことなかったから慣れてないだけなのかもしれないけど。
私は神田のこととなると、どうにも心が揺れやすい。
神田の傍にいるだけで、なんだか安心して。
神田が傍にいないと、なんだか寂しくて。
その存在に一喜一憂する。
「…こういうものなのかな」
人を思う気持ちって。
「よっし! 腹も膨れたし、調査開始さ!」
ぐしゃりと携帯食の包みを手で握り潰しながら、ラビが元気よく声を上げる。
あれは勢いで自分に喝を入れてるな。
この場の怖さを吹き飛ばすために。
「っスね!」
同じく声を上げるチャオジーは、恐らく本当に元気なだけ。
隠してる恐怖心なんてない。
多分、初めての任務でイノセンスの可能性も出てきたし、そっちの嬉しさが強いんじゃないかな。
──ピチャン…
「ん?」
振り返る。
「雪? どうしたんさ?」
「今、何か…聞こえた気が…」
「え?」
じっと目を凝らす。
暗い廊下の先には、何も見えないけれど。
──ピチャン
やっぱり。
微かだけど聞こえる、水が滴るような音。
「こっちから水音がする…っ」
「ほんとっスかっ」
「雪、一人で行くなさっ」
つい追いかけるように小走りで進む。
後からチャオジーとラビもついてくれた。