My important place【D.Gray-man】
第25章 Noah's memory
水の中、私の背後に映った白い人。
そのにんまりと笑った口元が動いて、何か言葉を紡ぐ。
声は聞こえなかった。
でも、それが何を意味しているのか。
それは漠然と理解できた。
"奴ヲ許スナ"
これは怪奇現象じゃない。
この誰とも知らない白い影は、私の中の──
バチィッ!
「つぅ…!」
水に浸かっていた手が、激しく痛む。
弾かれて思わず引っ込めれば、ビリビリと手が震えた。
何、この痛み。
なんだか拒絶されているような──
「雪! ほんとに大丈夫さっ!?」
「……」
「雪っ?」
思わず自分の両手を凝視する。
……知ってる。
この、拒絶される感覚。
これは──
『いたいよ…いたい…』
父のイノセンスに、拒絶された時と同じものだ。
「…イノセンス」
「へ?」
「これ、イノセンスだ」
思わず呟く。
ビリビリとくる痛みは、この水全体からだった。
「この水自体が、イノセンスなんだよっ」
「水自体…?」
咄嗟に顔を上げてラビを見る。
漠然とだけど、それは確信に似ていた。
それなら全ての現象に、納得がいく。
あの水に濡れた人形が、変に動いていたのも。
この部屋を取り囲む、壁に染み込んだ水跡の人影も。
「この水がイノセンスなら、全部説明がつく!」
「でも形のないもんにイノセンスが宿るんさ?」
「わかんないけど…何か源があるのかも…っ」
言えば、考えるようにラビが難しい顔をする。
「…わかった、一か八かさ」
そして徐に、鉄槌の柄をヒュンッと掌を軸に回して掲げた。
「雪、オレに掴まってろ」
「え?」
「ちぃっと荒療治だけど、炙り出してやる」
ふっと、突如熱を帯びていた鉄槌から"火"の文字が消える。
一気に辺りが闇にまた包まれる。
まだビリビリと痛みはくるけど、我慢できない訳じゃない。
慌てて体を起こして、傍にあるラビの団服を掴んだ。