My important place【D.Gray-man】
第25章 Noah's memory
ポタポタと、天井から滴り落ちる水。
それは天井に染み込んだ、その"跡"から。
「…人、さ?」
いつの間にそんな現象が起きていたのか。
部屋の壁一面に、静かに佇む幾つもの人影。
──違う。
「水…」
壁に染み込んだ水によってできた、幾つもの人影のような跡だった。
まるで意志があるかのように、壁を伝う水が意図的に作り上げている。
それは沢山の人の形を象ったもの。
ただの水跡と言えばそれまでだけど、静かにこちらを見るように佇む人の形は、異様な気配だった。
「雪…オレ…そろそろ限界なんだけど…」
「わ…私も…」
情けなく震える声で呟くラビに、私も抱きしめたラビの腕を離すことができなかった。
どうしよう。
すんごく怖い。
『俺、チャオジーっス』
『きゃはははは』
『仲良くしてね』
ドアの向こうからはチャオジーの声で、機械的な笑い声が聞こえるし。
壁の至る所には、水跡でできたぬっと立つ沢山の人影。
何がどうなっているのか。
この壁に攻撃をしても、大丈夫なのか。
「もうやだ…」
本当、怪奇現象って嫌いです。
思わず弱音を吐いたその時だった。
──ビリッ
「った…ッ」
水に浸かっていた足先から、鋭い痛みが走る。
さっきまでの微弱な違和感じゃない、強い痛み。
「っ…!」
「雪っ? どうしたんさっ」
「ぅ、ううん…大丈夫…っ」
思わず屈み込む私に、焦ったラビの声が届く。
足先を押さえたまま、自分の姿が揺らぐ水の波紋の中に見えて。
「──…!」
其処に映ったのは、私の背後から覗く顔。
「…っ」
今度は振り返らなかった。
振り返ったら、またこの顔を逃してしまう気がして。
揺れる波紋の中に見えるその顔を、凝視する。
それはよく見れば顔のようで、顔じゃなかった。
人としての輪郭はある。
だけど、目も鼻も髪の毛も何もない。
真っ白なその輪郭に浮かんでいるのは──…にんまりと笑った口元だけ。