My important place【D.Gray-man】
第25章 Noah's memory
あたふたと慌てる私達に構うことなく、更にどんどんと小さくなった炎は、あっという間に。
「あ。」
「げ。」
ふっと、消えてしまった。
一気に辺りが暗闇に包まれる。
「………ラビ、火」
「…だからライターじゃねぇって」
ぽそりと言えば、そう言い返しつつも。
「はぁ…」
ラビも真っ暗闇は流石に嫌だったのか。
隣で溜息混じりに、鉄槌を発動させる振動が伝わった。
「あ。炎を灯す乾き物なら──」
「大丈夫さ」
こんな水浸しの部屋じゃ、炎を灯してもすぐ消えてしまう。
慌てて荷物からボロ布同然になってしまったファインダーのマントを引っ張り出そうとすれば、あっさりと返したラビは暗闇の中で鉄槌を振った。
「"火判"」
いつもその言霊を聞けば、ラビの鉄槌からは勢いよく炎の柱や炎の蛇が舞い上がっていた。
だけど静かに口にしたその技は、柱も蛇も噴き出させることはなく。
「………そんな使い方あったの」
手頃な大きさの鉄槌の側面に"火"という炎の文字を浮かび上がらせるだけ。
それは私の肌に熱気を伝えつつも、同時に周りを照らす灯りとなってくれた。
うん、
「ライターから照明に昇格だねっ」
「んな昇格要らねー」
ぐっと親指をおっ立てて言えば、即効で拒否られた。
なんで。
いいじゃない、便利なんだから。
「でもさっきより見通しよくなったよ。今度はラビが灯り役やってて。私が辺り調べるから」
鉄槌を扱えるのは適合者のラビだけ。
灯り役を任せて、辺りを探ろうとすれば。
「ちょい待ち」
水溜りに足を踏み込むより早く、ラビに手首を掴まれた。
「水、変なんだろ。無理に歩き回らなくていいから」
振り返れば、あんなに疑っていたのにすんなりと私の意見を受け入れてくれたラビがいた。
「でも…」
「さっきからずっと調査し回ってるし。チャオジーが戻ってくるまで、一時休憩でもしねぇ?」
…まぁ、確かに。
お昼休憩後は一度も休んでいないから、多少の疲れはある。
「…じゃあ、チャオジーが戻ってくるまで」
少しだけ、休むことにしようかな。