My important place【D.Gray-man】
第5章 夢Ⅱ
「ボロ宿って…ああ、お湯が時々止まるから?」
「知ってたなら言え」
「ごめん」
いつもは一つに結んでいる長い髪を下ろして、団服を脱いだ下の黒服だけの格好。
団服のズボンも真っ黒だから、全身黒尽くめな姿は変わらないんだけれど。
それでも普段見慣れないから、つい珍しくてまじまじと見てしまう。
「なんだ」
「いえ、なんでも」
視線を感じたのか、美形だけど眼孔鋭い目が向いて反射的に顔を逸らした。
うん、いつも通り。
なんら変わりない。
やっぱり神田は神田だ。
「報告書なんて帰ってやれ。俺は寝る」
私の手元を見て、鬱陶しそうに眉間に皺が寄る。
「あ、はい。どうぞ」
どうぞどうぞ寝て下さい。
ファインダーの私はエクソシストのサポート役。
列車では個人車両の外で待機したり、任務中も後方で雑用したり。
基本エクソシストを優先するのが普通だから、その癖でベッドを差し出す。
ベッドで寝てくれたら静かになるかなとか。
その間は、あの威圧感ある視線から逃れられるかなとか。
そんなこと思ってませんから。
思ってませんから、ええ。
「…神田?」
だけど何故か神田がドサリと座り込んだのは、ベッドを背凭れにしていた私の隣。
その肩に団服を羽織る姿は、どう見ても座ったまま休息を取る様のようで。
「怪我人が使え」
たった一言、それだけ告げた。
え。
これ、まさか。
譲ってくれてるの?
…………あの神田が?
「怪我って言ってもそんなに酷くな」
「放り込むぞ」
「寝ますっ」
私の言葉を遮って、ぴしゃりと告げる神田は常備運転そのもので、本気でされ兼ねないから慌てて従う。
ベッドに横になれば、神田の肩と後頭部だけが見えた。