My important place【D.Gray-man】
第5章 夢Ⅱ
そりゃまぁ、あんな顔を近付けられたらドキリともしますよ。
でも任務の度に阿呆だの愚図だの呼ばれ、スパスパと頭をサンドバッグの如く叩かれ。
お陰様で神田が私に顔を近付けようものなら、別の意味で心臓が跳ね上がるようになった。
主に頭にタンコブを作られることへの危機感で。
「最早、一種のDVなんじゃ」
ファンクラブの方々は短気な神田も認めてるみたいだけど。
凄いと思う。
最早、女神様だと思う。
そんな広い心、私も欲しい。
あ。でも。
『二度はないからな』
シャワーを浴びに行く手前で神田が一瞬だけ零した言葉は、いつもの冷たい物言いじゃなかった。
なんとなくだけど柔らかかった。
…ような気がする。
……多分。
一瞬だったから曖昧だけど。
「他人に無関心だけど、見てるところはちゃんと見てるんだよね…」
ありがとう、だなんてありきたりな言葉、今までの任務で何度だって言ったことはある。
でも心からの言葉を伝えたのは、きっと初めてだった。
怖かった。
真っ直ぐに誰かに気持ちを伝えたいなんて思ったのは、この教団内で初めてだったから。
不快だと思えばなんだって簡単に切り捨てる神田だから、礼を言っても邪険にされることは多かった。
それでも一瞬垣間見えたさっきの顔は、どの予想とも違っていて。
それがもし、私の心に反応してくれたものだったなら。
「…っ」
今まで知らなかった神田の一面に触れたと知った時、胸はじんわりと何かに包まれた。
見たいと思った。
知りたいと思った。
きっかけのように溢れた気持ちだから、その思いの形はあやふやだけど。
それでも、これは"興味本位"なんかじゃない。
それだけははっきりと感じられた。
まさか神田にそんな気持ちを抱くなんて──
「ボロ宿にも程があんだろッ」
「お、おぉおおかえり!」
タイミングを見計らったようにバタン!と荒々しく開く脱衣所の扉。
思わず挙動不審に吃(ども)ってしまった。
び、吃驚した…平常心、平常心。
はい深呼吸!